アルミや銅線を槌で打ち伸ばし、片側を蕨の様に巻いて簪を作った。
綺麗に結った髪から、くるくると丸まった植物の様な有機的な物体が
にょきにょき生えている様を想像しながら槌を振るう。
叩くと硬くなるから、時々バーナーで炙り、焼き鈍してまた叩く。
金属が冷えていくのを待つのももどかしく、
火傷しそうになりながら、好きな形になるまで
何度も叩いたり炙ったり曲げたり、また戻してみたりして、
それぞれ微妙に形や大きさの異なる三本の簪を作った。


しかし出来上がったは良いけれど、自分で試してみる事も出来ないから、
何処をどう直せばより良いものになるのかよく解らない。

長い髪を持った人に挿してもらい、漸くなるほどと腑に落ちる。


挿してみて初めて本来の姿が見える、というのはとても新鮮な体験だった。
単体で見ている時とは明らかに表情が異なるし、
巧く表現する言葉を持たないが、髪に挿した途端に、
在るべき場所に在る、という存在感を醸し出す。
とても面白い道具だと思う。


時代によっては護身具として使われたり、身分を表す為の意匠が施されたりして
女性の装身具としては特殊な一面を持ち合わせており、
髪が長くなければ必要のない道具だし、使いこなすにも多少の慣れが必要な様だが、
生活の道具として非常に魅力的だし、機能的な面でも優れている。
何しろ十五センチ前後の一本の棒だけで長い髪を纏めてしまうのだ。
これ以上ないほどシンプルで、だからこそ職人達が腕を競い合い、
遊び心や粋を盛り込む甲斐もあったのだろう。
非常に日本的で、洗練された美しい道具だ。
もっと一般に普及すれば良いのに、と思う。


先日の日記にも書いた事だが、女性の長い髪には特別な存在感や生命感がある。
その髪に挿される事で本来の姿を現す簪にも、
女性の装身具として、道具としての特殊な立ち位置がある様に思う。


http://uronnaneko.jugem.cc/?eid=1245



薇の様にも、魔女の持つ杖の様にも見える