スキー


スキーなどこれまで片手で足りるほどの数しか経験がなく、
そのどれもが楽しいとは言い難いものだ。


最初に経験したのは多分まだ小学校の高学年くらいで、
日が落ちるまでに山を降りられなければ救助に向かうから、
と言い置かれて上級者コースの頂上に置き去りにされ、
何時間も掛けて何とか自力で滑り降りたと言うか転げ落ちたのだけれど、
その頃には星が見え始めていて、降りてみれば大人たちは食事も済ませてすっかり寛いだ様子。
流石に面白くないので子供らしく拗ねてもみようかという気になった。
その上次の日はまともに立ち上がる事さえ出来なかった。
そのお陰か僕の滑り方はすっかり捨て鉢なものになって、
下手な癖に自殺の真似事の様なやけくそな滑り方をするから、
見ている方が怖いと言われる様な有様で、
だからどうして今になってこんな夢を見たのか、さっぱり見当もつかない。




かなり急な斜面を必死に滑り降りている。
コースは狭く、カーブのきつい螺旋状になっており、片側が崖で、
もう片側は冷たく凍って切り立った山肌が剥き出しの壁になっており、
ぶつかる度にあちこちが痛んだ。
それでも崖の方に転べばまず助かりそうもないので、
壁に身を削られる様にして下りて行くしかない。


間隔を空けて順に下りるのだけど、途中事故のない様になのか、
只観客としてそこに居るのか、監視小屋の様な場所からコースを見下ろしている者が居る様だ。
見知らぬ人たちが列を作って自分の番がやって来るのを待っている。


もうずっと滑っているのに、相変わらず斜面は急で、
脚も、山肌に削られた肩や腕も酷く痛む。
このまま行ってもなだらかでひらけた場所には辿り着きそうもない。
疲れて集中力も散漫になり、いっそこのまま崖側に倒れてしまえば楽になれるかも、
と思い始める。そうなれば後はどのタイミングで実行するかだが、
なかなか踏ん切りがつかない。
この馬鹿げた滑降をいつ終わりにするか、そればかり考えながら
灰色の山肌を恨めしい気持ちで睨んで滑り続ける。







友人曰く、僕の滑る姿は、幽霊かゾンビの様にぼーーっと突っ立って
腰を落とさず直立不動で物凄いスピードで真っ直ぐに滑り降りるので、
ちっとも楽しそうでない上にかなり不気味なのだそうだ。