音叉

あれもこれも面白がって首を突っ込むから、
確かに人より気の多いところはあるのかも知れないが、
何か選ぶ時には迷わず手に取って二の足を踏まぬ。
そういう勘は働く方だと思っていたが、
最近はどうも少し浮ついている所為か、
その勘も大して当てにはならない。


都庁の側で開催されていたミネラル・フェアへ
最終日に駆け込みで見に行った。


加工して使えそうな半輝石を仕入れておくつもりで
僅かばかりの軍資金を握り締め、意気揚々と臨んだのだが、
あれも綺麗、そっちも素敵、これも面白い、などと
あっちにもこっちにも手を出して気の多い事をしていたら、
仕舞いにはどれもこれも屑石に見え出して、どうでもよい様な気がして来た。
キラキラ輝いて見えた石は、何時の間にかちゃちなガラス玉のように見えたし、
最初面白いと思って手に取った石は、何処が面白かったのかよく解らなくなっていた。
結局一つを選び出せなかったのだから、どれも必要じゃなかったんだろう。
今回は縁がなかったという事なんだろう。
貴重な仕入れの機会をふいにしてしまったが、仕方がない。
欲張って浮気な真似をした所為で馬鹿を見た。


そう言えば椎名林檎の唄に
「好きなヒトやモノが多すぎて見放されてしまいそうだ」って歌詞があった。
巧い事言うな、と思う。




それでも手ぶらで帰るのは何となく寂しくて、
パイライト(黄鉄鉱)を磨いて球体に加工したものと、
水晶の横に「チューニングなんとかかんとか」と書かれた札と共に置かれていた音叉を買った。
よく見掛けるものよりも太短くて、アルミの削り出しの様だ。
何をチューニングするのやらさっぱり解らぬ怪しげなものだが、
売り物の水晶を叩いたら澄んだ音色が長く長く響いて、
それを聴いたら「今日はもうこれを買って大人しく帰ろう」という気持ちになった。
こんな日は無理にどれか選んでも屑石を高く掴まされて後で泣きを見るのが落ちだ。
さっさと手を退いて退散する方が賢明だ。


暫くはこの音叉をポケットに忍ばせて持ち歩き、
時々取り出してはそこら中のものを叩いて悦に入る、
奇妙な人になるかも知れない。
元々少し奇妙なのだけれど。


本当に澄んだ綺麗な音色なんだ。



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