なんだかぽつんとした気持ちになってどうにも面白くないので
真夜中過ぎにサンダルをつっかけてコンビニへ。
メンソールとそうでない煙草を二箱、
それからスミノフアイスのジンジャーと普通のを二本買い、
近所の公園のベンチで夜風に当たりながら呑んだら
少しは気分も変わるだろうと考えて、ふらりと出掛ける事にした。


しかしながら公園に着いてみると、少しばかり不穏な先客が数名居て、
ふらふら入って行って独りベンチで呑み出せば
不要な災厄を自ら招きかねないといった様子だった。
気分がささくれ立っていると、殺伐とした出来事にも遭い易い。


それでもすぐに部屋に戻るのはつまらない気がして、
その辺をぶらぶら歩きながら瓶からぐびぐび呑んでいたら、
一瓶の半分も空けぬうちに足許が覚束なくなった。
やたらと喉が渇いていた所為だろう。
ふらふら歩き回った所為だろう。
強くもない癖に馬鹿な呑み方をした。
きっと今ここに鏡があったら、さぞかし滑稽な顔が映る事だろう。
茹蛸みたいに赤くなって、口はだらしなく半開き、目は充血してどんより濁っている。
なんて見苦しいんだろう。 可笑しくなってへらへらしながら空を仰いだら、
蝙蝠がひらひらと やたらと低いところを飛んで行くのが目に入った。
手を伸ばせば掴めそうな気がして、薄暗い街灯の下で暫く手を伸ばして突っ立っていた。
ひらひらひらひら 頭上を蝙蝠がからかう様に飛んでゆく。
呆けたみたいに口を開けてそれを見ているうちに、
何だか全てがどうでもよい事のように思えてくる。
あれもこれもそれも、どうせいつかは消え失せてしまう。
悪戯に思い悩んでみてもそんな事に意味などあるだろうか。
馬鹿馬鹿しくて情けなくて笑い出してしまう。泣き出してしまう。


帰ろう。
酒がおかしな効き方をした。
まだ一口呑み残しのある瓶をポケットに捻じ込んで、
もう上は見ないで、つま先だけを見詰めて出来るだけ真っ直ぐに歩いた。
裏通りを抜けて郵便局の側まで来てみると、道端に頭から血を流した男が倒れていて、
首をおかしな方に垂れてゆらゆらと揺らしながら、
救急隊員の質問に大きな声で「はぁーーいっ!」と元気な返事を返している。
何を訊かれても「はぁーーいっ!」としか答えない男は、
僕と目が合うと血塗れの顔でにっこり微笑んだ。
僕も笑い返して通り過ぎる。
「はぁーーいっ!」
男の声が後ろから追って来る。




部屋に戻ってみると、出掛けてから半時も経ってはいなかった。
灯りを消すと、薄暗い街灯に照らし出された蝙蝠の残像が目に浮かんだ。
ひらひらひらひら。
僕を何処かに誘う様に。
僕をからかう様に。