もう蒸し暑い

暑い。
大嫌いな夏がやって来る。
スープを温めなおすのさえ億劫になって
冷めたまま鍋からカップに移して飲む。
カップに移しただけでもマシだという事にしておこう。


夏前にはもうさっさと越してしまうつもりでいたから
夏物は全て荷詰めして送ってしまっていた。
浅はかな事だ。
また夏物のシャツを何枚か探さねばならない。


荷物を減らさなければならないが、
僕は巧く捨てる事が出来ない。
選ぶ事をせずに全て捨ててしまう事は容易く出来るだろうが、
これまでも何度かやってその都度後悔しているから
今度はそうしたくない。
捨てたり壊したり失くしたりするのは何時だって容易い。
手に入れるのがとても難しいものでさえ。


歳をとると捨てるのが下手になる と誰かが言った。
何もしなくてもどんどん指の隙間から零れ落ちて
大切なことも失いたくない記憶もどんどん無くしていくのに
この上まだ何かを捨てろだなんて、そんな残酷な事が言えるだろうか。
几帳面だった父の机の周りがどんどん乱雑になって行く。
それを嘆く日子さんの気持ちも、
何も捨て去る事が出来なくなってしまった父の気持ちも、
考える度に辛くて寂しくて、何処かが痛む様で落ち着かない。