雑用を済ませ、自宅へ戻る日。
友人が訪ねて来て、一階のキッチンで朝食を一緒に摂る。
友人は残り物のトマトスープがいたくお気に召して、
「俺の最後の晩餐のメニューに加えても良いくらいだ」と言って
何度もお代わりをした。知れば日子さんはきっと喜ぶだろう。
味覚に自己流で頑固な拘りのある奴なので、珍しい事だ。


駅まで送ってくれるという友人の車に
急遽日子さんと甥を便乗させて出掛ける。
そして日子さんの買い物にちゃっかり便乗する。
友人はタオル地の半袖パーカー、僕は小振りなメッセンジャーバッグを買った。
正確には、買ってもらった。
こんな天気の良い日に、たまには孫と出掛けて桜でも観ればいい。
良い気晴らしになるだろうに、すっかり出不精になってしまって
家に篭り切りな様子なのが気に掛かる。


友人が「サイズが大き過ぎるから」と編み上げのブーツをくれた。
僕も窮屈であまり履かなくなったブーツを二足送る事を約束して別れた。
金券ショップでチケットを購入して新幹線に乗り込む。
乗ってしまえば眠る間もないほどあっという間で、
あっけないほどすぐに東京に着く。
行きも帰りもよく晴れて、富士がとても近くに見えた。
窓からは灰色のビルや電信柱や橋の欄干や畑や山が、
目まぐるしく後ろに飛んでは消えて行く。
これから先の事に色々想いを巡らせてみるが、
薄ぼんやりとした不安がもやもやと膨らむばかりで
結局のところはなる様にしかならないし、した様にしかならないのだ。
ぼんやり考えてみても仕方がない。

新幹線の窓から外を眺めると、いつも少しだけ寂しい様な、
そわそわ落ち着かない気持ちになる。


東京駅に着いて駅地下のDEAN & DELUCAに寄り、
パンをいくつか買って上野駅へ。
駅構内の店に入っておむすびを食べた。
茶を啜りながら店の外を慌しく行き来する人たちを眺める。
戻って来たな、と思う。