鋭い切れ味が自慢のチィさんの爪は、
小さな剃刀の様に薄く、先端は針の様に細い。
いつも本当に感心してしまうくらい丁寧に磨ぎ澄まされていて、
時々知らぬ間に僕の薄い皮膚を傷つけてしまう。
ほんの小さな傷で、切れた事にも気付かないくらいなのに、
結構大袈裟に出血したりするから
手が赤く染まっているのを知って驚く事もある。
綺麗に磨いだ小さな武器を奪うのは気がひけて、
つい爪を切るのを怠りがちだから仕方のない事だ。
痛いじゃないか、と鼻先に赤く染まった指先を突き出したら、
少しすまなそうな、ばつの悪そうな顔をして、
二三度血を舐めてから、目が合わない様にそっぽを向いてしまった。


あ、と思う。
人の生き血は栄養になるのだろうか、などと
不穏な思い付きをする。
生き血でも吸って化け猫にでもなってしまえば良いのに。
それで後百年も生きれば良いのに。


馬鹿馬鹿しいし我ながら気味の悪い考えだ。
しかしそれでも、もしそうなら、
喜んで毎日でも分け与えてやるのに、などと思う。


きっとチィさんは「そんな生臭いもの、いらないわ」
と、そっぽを向くのだろうけど。



ずっと一緒には居られないんだ。
ちゃんと解ってる。