古着を買うと、まずは洗う。
それはもう、がんがん洗う。
DRY CLEAN ONLY と表示のあるものも、構わず洗う。
それは自分なりの儀式の様なもので、
前の持ち主の残り香や気配を消し、
完全に自分の持ち物にする為に必要不可欠な儀式なのだ。
だからクリーニング屋に任せるのではなく、
自分で洗濯機に放り込み、ぐるぐると洗われて行く様を
この目で確認しなくては気が済まない。


昨日買ったN2Bも早速その洗礼を受ける訳だが、
とは言えこうした軍用品は、同じ型番であっても
作られた年代によっては中綿の素材が異なっていたりして
洗うと中綿が片寄ったり縮んで悲惨な事になったり、
場合によっては着られなくなってしまう事もある。
実際にそうした失敗も経験済みなので、
こうした事に滅法詳しい友人に、洗う前にタグの写メを送って訊いてみた。
彼はレアなフライトジャケットを買って来てはそれをバラバラに分解し、
型紙を取って完璧なコピーをもう一着作り、
バラしたものはまた完全に復元するという驚くべき技量の持ち主だ。
洋裁を専門に学んだ事は一度もない筈なのに、
作られたものはどれも素材から細部の作りに至るまで、
舌を巻く程の完璧な出来栄えだった。本物よりも本物らしい。
その彼がタグを見て「それは洗っても大丈夫」と太鼓判を押してくれたので
安心して儀式を執り行う事が出来た。


がんがん洗って乾燥機にかけると、
前の持ち主の気配が消えて幾分軽くなった様に思う。
気の所為だろうが、僕にとっては大切な事だ。
御満悦でチィさんのブラシを拝借し、
フードに縁取られた真っ白なファーをブラッシングして
フワフワに整えてニヤついていたら、「それ…アタシのブラシよね…」
と言わんばかりの恨めしげな上目遣いで睨まれて
思わずごめんごめんと謝ってしまった。


乾燥機でほかほかと暖められたフライトジャケットの上は
乗り心地も良いらしい。

ボア付きのフードに収まってチィさんも御満悦