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永田町 黒澤にて宴席。
予約の時間よりも早く着いたので、側にある日枝神社へ行った。
門が閉じていて参拝は叶わなかったが、
以前に訪ねた際の事を懐かしく思い出す。
夜の神社は静かで落ち着くが、それにしても今夜は寒い。
よい時間になったので店へ戻った。
黒澤組の美術スタッフが手掛けたという店の外観は、
今にも懐手にして楊枝を銜えた三船敏郎が、
袴を風になびかせて出て来そうな趣がある。
店内は意外と綺麗で、黒澤映画の中に入り込むには
煤けた感じがまだ少し足りない気もするけれど、
フィルムに収めてしまえばまた違って見えるものなのかも知れない。
映画のセットも間近で観たら、意外と真新しく見えるのだろうか。
料理はどれもとても美味しくて上品な盛り。
僕は早々に酔ってほわんと夢見心地になってしまった。
置いてあるお酒の名前が「羅生門」だったり、
「隠し蔵の三悪人」だったりして面白い。
黒澤監督が作品の構想を練る時に描いたと思われるラフスケッチが
掛け軸にされて店内に掛けてあったり、
手洗いのドアには、遺作となった「まあだだよ」の中での内田百輭の台詞、
みんな、自分が本当に好きなものを見つけてください。
見つかったら、その大切なもののために努力しなさい。
きっとそれは、君たちの心のこもった立派な仕事になるでしょう。
が貼られていた。
ちゃんと映画のそのシーンを思い出した。
今改めて観直したら、当時とはまた違った感想になるのかな、
とぼんやり思う。