皮肉屋

気の利いた皮肉ならまかせて

郵便局が開くのを待ってEMSの送り状に記入し、
ムーンブーツの発送手続きを済ませた。
自分の手許を離れると、
改めてこの仕事が終わったのだという事を実感し、
それがほんの少し、寂しい。
良い時期に巡り会えた仕事だった。
暗闇や静寂を畏れないムーンブーツの強さが、
脆く崩れ去りそうになる自分を、何度も奮い立たせてくれた。
鑿跡一つ一つに色んな想いがこもっている。
またこんな仕事に巡り会う事が出来るだろうか。




兎に角独りで居たくなかった。
知ってか知らずか、友人が「良い天気だね」とメールをくれて
「こんな日は仕事を抜け出したくなるんだ」と
本八幡にある美味しい珈琲屋へ案内してくれた。
誰かと居れば、こんなにも平然としていられる。
話し、笑い、当たり前に時間が過ぎ、僕は大丈夫だと感じる。
なのに部屋に戻って来て、急に身体中から力が抜けて行く様に感じた。
呼吸が浅くなり、やたらと喉が乾いて気分が悪くなる。
それを何処か離れた場所から醒めた目で観察して分析し、
人並みに「寂しさ」を感じている自分に今更ながら驚き、
滑稽にさえ思う、別な自分がいる。


新鮮な初体験を喜ぶ気には今はとてもなれないが、
もう一人の自分はいつもとても意地悪く皮肉屋だ。
隙なく巧く立ち回らねば、何を言われるか解ったものではない。