ムーンブーツと蒸しパンと満月

底に満月

日付けが変わる頃まで彫り、
食事を摂り忘れていた事に気付く。
まだ作業途中で側を離れ難く、
作業着のままふわふわした蒸しパンを齧りながら
木は硬いな、などと思う。
真っ白なムーンブーツの柔かさを想う。
暖かさを想う。
背中を撫でたらどんな感触だろう。
どんな顔をして見せてくれるだろう。
そう思いながら、ムーンブーツの底に満月を刻んだ。


月は静寂と暗闇の中に生きるムーンブーツに相応しい。
しかしムーンブーツの見る暗闇に恐怖や絶望はない。
ムーンブーツの知る静寂の中に寂しさや悲しさはない。


床から伝わって来る家人の慣れ親しんだ足取や
背中に置かれた掌のぬくもりが
きっと今もムーンブーツを暖かく包み込んでいる。