高潔な魂

不屈の魂

ムーンブーツと名付けられたその猫は、
聴力を持たないハンデを抱えながら、
それをまるで独自な方法で克服してしまっているかの様だ。
青と金に輝くその瞳には、
怯えや諦めなど微塵も感じられない。


背骨は湾曲し、真っ直ぐ歩く事さえ困難だと言う。
歯は全て抜け落ちた。
そして今ではもう光さえも失っている。
病院では「何故生きていられるのか解らない」とまで言われたそうだ。
さぞかし痛々しく弱々しい満身創痍の姿を思い浮かべるが、
一番新しい資料として送られて来た写真を見てみても、
瞳には依然として少しも衰えない不思議な輝きがあり、
驚かされるほどに堂々としている。
“不屈の精神”を形にしたら、ムーンブーツそのものの姿になるだろう。


音も光もない世界で、何を信じればそんなに強く生きられるのか。
聴く事が出来、見る事が出来るのに、
毎日を不安や恐怖に苛まれて生きている自分を恥じたくなる様な
堂々としたその姿を、どうしたら映し取れるだろう。


陣痛で苦しむ飼い主の背中に寄り添い続け、
御産で留守の間は空腹を忘れて玄関で待ち続ける。
その不機嫌そうな顔の下に隠された優しさや高潔な魂を、
どうすれば彫り込めるのだろう。


只漫然とペルシャ猫を彫ったのでは、少しもムーンブーツに近付けない。
その個性的な姿は、猫という種を超えて、
ムーンブーツという名の新しい存在の様にさえ感じられる。