誰だか判然としないが
親しい友人が小さな赤ん坊を連れて来た。
その友人も、人から頼まれて預っているのだと言う。
僕はまだ作業中で、部屋の中には
刃物や危険な電動工具類が散乱している。
気になったが、友人が付いている事だし大丈夫だろうと
茶を淹れに席を立った。


電動工具が動き出す大きな音を聞いて慌てて戻ると、
極端にブレードの短い小型のチェンソー
床に転がって唸りを止めるところだった。
友人が目を離した隙に子供が悪戯したらしい。
チェンソーの大きな音に驚いて床に落とした時に
跳ねたブレードが足に当ったのだろう、
腿の辺りからうっすらと血が滲んでいる。
酷い怪我ではなさそうだったが、
友人は動揺して青褪めたまま動かない。
子供は泣き声一つ立てない。
驚いた様に目を見開いて、じっと僕を見ている。
その目を見た途端に、僕も冷静ではいられなくなった。
病院に電話しなくちゃ、救急車を呼ばなくちゃ、
それとも抱いて外に駆け出してしまおうか。
気ばかり焦って一番近い病院が何処だったのか思い出せない。


ほんの一瞬の出来事だった。
柔らかで薄い皮膚。
小さな足に残る傷は深いだろうか。
それとも綺麗に元通りになるだろうか。


逃げ場の無い焦燥感に苛まれたまま目が覚めた。
夢の中でも現実でも、似た様な状況に置かれたら
もう二度と目を離すまい。
一瞬たりとも目を離すものか。


チェンソーは緑色のプラスチック製。
現実にあんなに軽量で小さなサイズのものがあるのかどうかは解らない。