一階で作業をしていたら、トットットッと
階段を降りて来る足音が聞こえた。
鑿を砥いでいる最中だったので
手を休めず作業を続ける。
振り向きはしなかったが、後ろに忍び寄って来る気配は感じる。
一本砥ぎ終わって振り向くと、そこには
“だるまさんが転んだ”状態で静止するチィさんが。
背後に忍び寄ってどうしようというのか。
目を丸くしたまま動かないチィさんを見ていると
可笑しくてたまらない。
思わず吹き出したら気を悪くしたのか
じろりと一睨みして横を通り過ぎると、
作業に使っている座布団の上に居座ってしまった。
そこに居られるとちょっと困る。
仕方がないのでまた鑿を砥いだ。
ストーブが燃える微かな音と
鑿が砥石の上を滑る音だけが響く。
チィさんは鑿を砥ぐ音が好きではないらしい。
自分で来た癖に、さも煩そうに耳を伏せて
迷惑極まりないという顔でこちらを見る。


作業中に側に来る事は滅多にないけれど、
夜中まで二階に上がらずに作業を続けていると
時々こうして様子を見に降りて来る。
大抵は少し離れた所に座って
暫くこちらの様子をじっと覗っているが、
すぐに飽きて二階へ戻って行く。


真夜中に猫と“だるまさんが転んだ”をするのは楽しい。