電話の呼出音を聞き逃さぬ様に
バスルームのドアを開け放しにしてシャワーを浴びた。
頭を洗っていると、
こういう時に限って呼出音が鳴ったりするんだよな、
などという考えが浮かぶ。
いつだって間が悪いのだ。
慌しくシャンプーを流し
乱暴にシャワーカーテンを開けたら、
チィさんがバスタブに手を掛けて、後ろ足で立っていた。
目をまんまるにしてバスタブの中の僕を見ている。


もう一度静かにバスタブの中にしゃがんで
チィさんが小声で鳴くのを聞いた。


スッとなにかが抜けた様になって
もう電話の事はどうでもよくなった。


掌に水を溜めて差し出したら
チィさんはその水を美味しそうに飲んだ。


目を閉じて、ゆっくりと暖まった。
暗くしたバスルームの中はとても静かで、
時々ちゃぷんと水音がして、
時々チィさんが小さな声で鳴いて、
他にはなにもない。