御仏の御姿

割れてる剥けてる裂けてる!

友人も金曜に仏像展を観て来たらしい。
気付かずに擦れ違ってるかも知れないね、などと話した。


宝誌和尚立像という ちょっと風変わりな像がある。
僧の顔が裂けて、剥けた皮膚の下から
また別な顔が覗いているのだ。


宝誌和尚は中国南北朝時代の伝説的な僧で、
武帝の命で彼の肖像を描こうとした画家の前で
自らの手で顔の皮を引き裂き、その下から十一面観音の姿を見せた。
慈悲や威嚇、怒顔、笑顔などの十一面観音の持つ表情が次々と現れるので、
その画家はついに絵を描くことができなかった、
というエピソードに基いて彫られたものらしいが、
僕はどうしても、ちょっとしたホラーな光景を想像してしまう。
自ら顔を裂くという行為自体も怖いが
この像自体も霊木を使用した為に一木造りで、
木の幅に合わせた為か、極端に肩幅が狭く異様な印象を与える。


そのエピソードが現実ならば、
自らの顔を裂いて皮膚の下から次々と仏の顔を見せる僧。
その前に立たされた画家の感じる恐怖は、
気も狂わんばかりの強烈なものだろう。
仏の顔と言っても十一面観音の持つ顔の中には
不気味で恐ろしい表情のものも多い。


神仏の像を見て不気味だの恐ろしいのと言ってしまっては
罰当たりだろうか。 しかし千手観音にしたって、
真横に立って沢山の腕が生えている付け根の辺りをじーっと見ていると、
百足か船虫か、何か節足動物の様にも見えてくる。
あの沢山の腕をわらわらうねうねと蠢かしながら現れたら、
有難がって平伏すどころか、大慌てで逃げ出すか
手近な武器を手に取って戦おうと身構えてしまうのではないだろうか。
あ、やっぱり罰当たりかな。


いや、不信心な僕にでも
これほどまでに畏怖の念を抱かせるのだから、
御仏の御姿には矢張り何かあるのだろうか。