自転車

もうどれくらいになるだろうか。
玄関のすぐ脇に
子供用の小さな自転車が駐められている。
始めは 近所に遊びに来た子が駐めて行ったのだろう
と、そう思っていた。
しかし何日経っても、自転車はそのままそこにある。
よく見ると古びて所々錆が浮き、鍵も壊れている。


誰も取りに来ないまま、もう何週間かが過ぎた。
自転車の様子から想うに
持ち主はきっとまだ小さな女の子だろう。
酔漢が何処かから拝借して来たのだろうか。
大人がこんな小さな自転車に乗るには、
少しばかりコツが要りそうだ。
おそらく歩いた方が楽なのではないだろうか。


冷たい雨が降っても、こんな寒々しい夜にも
ずっと駐められたまま物言いたげな自転車を見ていると、
他の理由もちらりと頭を過る。
自転車を取りに来られない理由。
出掛けた切り、自転車を駐めた場所に戻って来られなかった理由。



自転車は今夜も玄関脇で ひっそりと待ち続ける。