「なにしてる? 珈琲淹れよっか?」


短いメールが届く。
気の早い僕は もうそれだけで
部屋が香ばしい珈琲豆の香りで満たされて行く様な気がする。


玄関の鍵を開けて、湯を沸かして待っていると
暫くしていつもの様に友人が階段を上って来て、
鞄から道具を取り出しテーブルの上へ並べ始めた。
挽き立ての豆が入ったタッパー、
銀色の細口ドリップポット、
手吹き硝子のコーヒーサーバー。
そして今日はもう一つ、
いつもより包みが余計にあった。

コーヒーもう一杯(1) (ビームコミックス)

コーヒーもう一杯(1) (ビームコミックス)

コーヒーもう一杯 II (2)

コーヒーもう一杯 II (2)

漫画を滅多に読まない友人が借してくれた漫画は、
友人が淹れてくれた珈琲によく似た味がした。


いつか暮らしが変っても、僕は別な街で
この香りを幾度となく懐かしく思い出すだろう。
友人が淹れてくれた珈琲の暖かな香り。
どのお店で飲むのとも違う、特別な一杯。
香りを楽しみ、味を楽しみ、お喋りを楽しむ。
マグカップの暖かさが、冷えた指先にも心にも沁みわたって行くのが判る。


「コーヒー、もう一杯。」