諸事情から暫くの間、ベッドに横になって
じっと大人しくしていなければならない。


満身創痍で寝込んでいる訳でもないので、
ついむくむくと出掛けたくもなるのだが、
今一つ足元が覚束ないのだ。


気持ちは大いに元気であるのに、
ずっと横になってばかりいては
気持ちの方まで鬱々として腐ってくるというものだ。


退屈でこうしてパソコンの前に来てはみるものの、
日記を更新したりするのがやっとの事で、
すぐに座っているのが辛くなってしまう。


横になって本を読むのが唯一の娯楽となってしまった。
読みかけの本を次々と片付けて、友人から借りたまま、
読むのを楽しみに取っておいた本があるのを思い出した。


畠中恵の「ぬしさまへ」。


ぬしさまへ (新潮文庫)

ぬしさまへ (新潮文庫)


読み始めてすぐに、鬱々とした気分が吹き飛んだ。
ページを捲って物語を読み進めるめるのが、兎に角楽しい。
読み易い文体、時代設定、
前作よりも更に目鼻立ちがしっかりとして来た印象を与える
魅力的な登場人物達。
世界観も何もかもが好みだ。


「空のビードロ」というエピソードでは、
江戸時代という時代設定では珍しい品だった、
硝子細工の根付が重要なキーアイテムとして描かれている。
疲れ果て荒んだ心までも、その清浄な青い輝きで浄化してしまうような、
そんな息を飲むほどの澄んだ青さを持つビードロの根付。
絵空事の中に描かれた品を、これほど欲しいと思ったのも久しぶりだ。


読み進める事に喜びを感じさせる本に出会えるのは、
とても幸せな事だというのを思い出させてくれる一冊だった。